岸優太 ✕ Glass Flower Episode 3

 

 

デビューシングルの発売まで、あと2週間。

 

歌番組の収録や雑誌の撮影が分刻みで

立て込むようになって、

酷い日は1日中テレビ局やスタジオに

篭りっぱなしで次々へと入れ替わり

立ち代わりにやってくるスタッフに

目が回るような感覚を覚えた。

 

毎日は行けなかったけど、

仕事の合間に彼女の顔を少しだけでも

覗きに行けば、彼女も喜んでくれて

俺も「頑張ろ、」と思えた。

 

 

 

デビューシングルの発売まで、あと1週間を切った。

 

「今日テレビで優ちゃんみたよ、」とか

「乾杯しなきゃね、」とか

 

身振り手振りで嬉しそうな彼女は

本当に病気か?ってほど、よく喋った。

 

でも、その中に君の話なんて1つも無かったね。

俺の話を、俺が帰るまで話す君が愛おしかったよ。

 

 

 

 

 

遂にデビューシングル発売の日。

 

仕事がいつもより早く終わった俺は

「シンデレラガール」のCDを紙袋に入れて

乾杯するためのジュースを売店で2本買って

彼女の病室に向かった。

 

 

 

 

 

「優ちゃん!おめでとう〜!」って

満面の笑みで迎えてくれる彼女の姿が

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこには、無かった。

 

 

空っぽになったベッド。

 

彼女が飾っていた俺達が

表紙の雑誌もそこには無い。

 

 

たまたま後ろを通りかかった

看護師さんに彼女の居場所を聞く。

 

「○○ちゃん、昨晩個室に移って」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「今朝、」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頭を強く殴られたような、そんな感覚。  

 

 

 

 

 

ナースステーションの前を通って

エレベーターを待っていた俺を

さっきの看護師さんが呼び止める。

 

彼女から預かっていた、という

俺宛の手紙。

 

俺は、その手紙を屋上で読んだ。

 

 

 

 

優ちゃんへ

 

CDデビューおめでとう。

 

本当は、直接言いたかったけど

優ちゃんがこの手紙を読んでるということは

言えなかったんだね。

 

沢山言いたいことあるけど

 

私は

 

いつも会いに来てくれる優ちゃんが大嫌いでした。

 

いつも優しい優ちゃんが大嫌いでした。

 

こんな私のことは、早く忘れて

優ちゃんは、沢山の夢を叶えてね。

 

 

泣いた。

 

いっぱい泣いた。

 

彼女が何度も笑顔をくれた屋上で泣いた。

 

さよならも言わせてくれなかった

彼女のことを想って泣いた。

 

初めて見る彼女の文字は、震えていて

最期の力でペンをとってくれたことが

よく分かる手紙だった。

 

手紙を持つ手に思わず力が入る。

 

 

君と過ごした、この1年。

 

心が挫けそうな時、

いつも励ましてくれたね。

 

励まさなきゃいけないのは

俺の方だったのに。

 

 

家に帰ると、ベランダでは

「2人で育てるはずの」

綺麗な紫色の花が咲いていて

 

俺は、それを携帯で写真に撮った。

 

送ることも、見せることも出来ないけど。

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

ねぇ、君が珍しく話した自分の話、覚えてる?

 

「私には、青春時代が無かった。

中学生の頃からずーっと入院してたから。

叶えたい夢は、沢山あるのに、

まだ1つも叶えられてなかったの。」

 

「……でもね?優ちゃんが私の夢を

叶えてくれたよ。」

 

どんな夢?って、俺は聞いたね。

 

「私、恋をしたかったの。」

 

「両想いにもなりたかった。」

 

「叶えてくれて、ありがとう」

 

 

 

 

そんな君が大好きだったよ。

 

5月23日、君は天使になったけど

 

まだ、きっと

また、ずっと

 

あの日を想ってるから。