永瀬廉 ✕ 遠距離彼女 Episode 9

 

今日帰れそう  

 

               どこに?

 

家に

 

               だれの?

 

 

喧嘩売ってんの笑

 

               うん

 

だる

    

               うん

 

 

待っとらんでいいけど

待っといてくれたらちゅーしたる

 

 

 

のメッセージを送信して、

生放送の出番に意識を向ける。

 

 

やっと、全ての出番が終わって

楽屋に戻ったのは、PM 11:00

 

 

「まってる♡」の返事なら満点やけど

素直やない彼女のことやから、

「りょーかい」って、

わけわからん猫のスタンプがひとつ

押されてるのが現実的なとこか。

 

 

 

…………って、俺の予想を裏切って

なんで既読スルーなん。

 

 

とりあえずWeb用のブログを更新してから

 

「寝た?今から帰るよ〜」と

送ってみるけど、今度は既読すら付かず。

 

 

 

 

 

 

 

そーっと、玄関のドア開けて

リビングのドアから漏れる光に少し期待した。

 

 

 

 

 

 

「………………まだ、起きとったん?」

 

 

ソファの上で、体育座りして

テレビ見てたらしい彼女。

 

テレビが映すチャンネルからして、

俺の出番も見てたに違いない。

 

ローテーブルに置かれたマグカップと携帯の存在に

既読スルーも未読スルーも真相が知りたくなる。

 

そして、

 

当たり前みたいに着てるのは、俺のトレーナー。

 

萌え袖の限度を越えて、かろうじて

指先を出した状態、ネイルも変わってる。

 

「…………。」

 

LINEで喧嘩を売ってきた彼女は

そこに居なくて、眠たそうなとろんとした表情で

両腕を広げて「おいで、」って、そう言うから

 

 

ソファに座ったままの彼女の胸に飛び込むように

抱きしめて、そのまま持ち上げる。

 

 

彼女の細い腕が俺の首に回されて

彼女の華奢な脚が俺の腰に巻き付いて。

 

 

俺の鎖骨あたりに埋まる彼女の頭を

ポンポン、と撫でる。

 

 

折角、始めた同棲なのに

広めのベッドに彼女をひとりで

寝かせる心苦しさはあったけど

彼女が待ってるから、そう言い聞かせて

寒い現場も、終わりの遅い現場も頑張れたのよ。

 

 

 

 

 

 

「なぁ、」

 

「ん?」

 

「…………下履いとらんの?」

 

「………………」

 

 

 

 

もう、それは確信犯よ。

 

俺でさえ大きいと感じるトレーナーを

ワンピース仕様で着ている彼女は

恥ずかしそうに俯いたまま。

 

抱っこしたまんま、寝室に進行方向を向けても

いつもなら「ちょっと、」ってなる彼女が

今日は、そんな素振りすら見せない。

 

 

俺の鎖骨あたりに感じる彼女の吐息が

「はやく連れて行って、」そう言ってる気がするのは

俺の都合のいい解釈ではないようで

 

 

ベッドに彼女を降ろして、

俺も片膝をついてベッドに上がれば

彼女もぺたんと座り込んだまま、両手で、

俺の両頬を包んできて唇を合わせてくる。

 

 

彼女の腕があがる度に、

ちらちらとスウェットから覗く太腿。白い肌。

 

今度は、俺がそんな彼女に体重をかけるようにして

背中からベッドに沈ませて、その間も唇は重なったまま。

 

 

視界に入るしわくちゃの俺のパジャマ。

 

これを抱きしめた夜の数だけ

寂しかったことを俺は知っている。

 

 

 

 

 

 

「……はぁ、」

 

 

情事の後の、呼吸をゆっくり取り戻す時間。

 

 

「………廉って、久しぶりだと

しっかり3回はするよね」

 

「言うな言うな、たまっとんねん笑」

 

 

 

もうこのまま、シャワーも浴びずに

寝落ちもあるか、と思える程に

疲労感を勝る幸せな気持ちで満たされていて

 

 

両腕を広げて仰向けで天井を見上げる俺に

 

 

「………髪伸びたね。」

 

って、彼女の腕がスッと俺の髪に伸びる。

 

「ん………」

 

「美容院行かないの?」

 

「………予約いれた。」

 

「……そっか、」

 

 

元々口数の少ない彼女に合わせて

俺達の間に流れる空気は、いつもこんなん。

 

 

だけど、そんな時間がめっちゃ癒やしで。

 

俺には、必要不可欠。

 

 

そのまま、俺は深く眠りに付いたようで

 

「廉、起きて。電話、鳴ってる。」

 

彼女に起こされて、手渡された携帯には

マネージャーからの着信表示。

 

 

あと、30分でマンション下に着くと言われ

重い腰を上げる。

 

 

「………なんか食べてく?」

 

キッチンに立つ彼女の横を通り過ぎて

冷蔵庫から水の入ったペットボトルを取り出す。

 

 

ゴクゴクと喉を潤して

ペットボトルを冷蔵庫に戻す。

 

 

「んー食べちゃおっかな」って

背中から彼女を抱きしめて

ふにふにの頬を食べるように口付ければ

「……もぅ、」って呆れ顔の彼女が

俺の頭をくしゃくしゃと撫でる。

 

 

昨日の夜、彼女が作って食べたという

ロールキャベツを温めてもらって食べた。

 

 

久しぶりの彼女の手料理に

後ろ髪を引かれるような想い。

 

 

でも、

 

 

もう、行かんと。

 

 

 

玄関に見送りに来てくれた彼女は

俺を困らせるようなことは言わへん。

 

 

そんなとこが、好きだけど

そんなとこが、嫌い。

 

 

行かないで、って目をしてるくせに

「行ってらっしゃい」って口では強がって

 

 

おでこに落とした俺からのキスも

物足りないなら、そう言えばええのに 

また強がって笑って見せるよね。

 

俺の見えないとこで、溜息ついて

俺の知らないとこで、泣いたりしてるん?

 

 

そんな時は、またあのパジャマを

俺の代わりに抱きしめるん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

廉が居なくなった寝室に戻って

カーテンを開ける。

 

洗濯しようと思っていた

廉が昨晩脱ぎ捨てたTシャツとスウェットパンツ。

 

「……………あれ?」

 

 

 

 

私の代わりに廉が連れて行った

昨晩も私が着ていた廉のトレーナーは

今頃、廉が抱きしめてるのかな。

 

 

ねぇ、廉

 

はやく帰って来てね。

 

 

(じゃないと、次々に家に届く廉が展示会で頼んだA/Wの服は、私が貰っちゃうから)