永瀬廉 ✕ 遠距離彼女 Episode 11

 

「ただい・・・・まー・・・・。」

 

 

 

 

真っ暗な部屋。

 

とっくに帰っていると思っていた

彼女の姿も勿論無い。

 

 

リビングとキッチンの電気を

ぱちぱちとつけて。

 

 

 

 

 

あ、そっか。

 

 

 

俺、夜まで生放送入ってるわって言ったら

じゃあ、友達とご飯行ってきてもいい?って

なったんやっけ。

 

 

行ってほしくなかったけど

そんなこと言える立場でもなくて

 

 

 

「おん、わかったー。

俺、日付変わる前には帰れるはずやからー」と、

「その時間には、家におってな?」の

意図を込めたつもりやったけど

 

 

 

届かんかった、か。

 

 

 

 

厚手のロングコートのポケットから

スマホを取り出して、テーブルに置く。

 

 

コートは、脱いで

ハンガーラックへ。

 

 

 

短い通知音は、LINEの新着通知で。

 

 

 

トーク画面をひらく前から

「ごめん」の文字が見えて嫌な予感しかない。

 

それでも、せっかちな俺の親指は

彼女とのトーク画面をタップしてしまう。

 

 

ごめん、終電逃しちゃって

今日は、友達のところに泊めてもらいます

 

 

って、ごめんなさいって

必死に謝るネコのスタンプがひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

は?

 

 

 

クリスマスの?

 

 

聖なる夜に? 

 

 

俺ひとりで寝ろって?

 

 

 

恋人おるやつ、って

1年でいちばんイチャイチャする日って

国で決まってなかったっけ?

 

 

 

 

 

 

LINEを返す手間も面倒くさくて

すぐに通話ボタンを押す。

 

 

呼び出すコールまでもが、煩わしい。

 

 

 

 

「もしもし?」

 

「おーLINEみたけど帰ってこんの?」

 

「ん、終電逃しちゃって。」

 

「今どこ?」

 

「友達の家」

 

「住所送って、迎えに行くから。」

 

彼女の返事も聞かずに

通話を終える。

 

脱いだばかりのコートを

ハンガーから外して、もう一度羽織る。

 

 

車に乗り込んでスマホに届いた

「友達の家の住所」をナビに入れる。

 

まぁまぁ、車を走らせて

「目的地周辺に到着しました。

案内を終了します。」と

 

ナビに責任放棄されたところで

速度を落として

彼女に電話をしようと一旦、車を停める。

 

「……………………。」

 

 

数メートル先のマンションの前で

談笑?してんのは、恐らく「俺の彼女」とオトコ。

 

 

彼女は、顔の前で手を振りながら

謝るような素振りで頭を下げている。

 

オトコは、そんな彼女に

スマホを片手にやたらしつこく話しかけていて。

 

電話したろと思ったけど

ふたりの前まで、車を進める。

 

ピタッと、ギリギリのところで

車を停めると、それに気付いた彼女が

オトコにまた頭を下げて小走りでこっちに来る。

助手席のドアを開けて「ごめんね?」と乗り込む。

 

「いや、おかえり。」

 

いろんな意味で。

 

って思いながら車を発進させる。

 

「………………友達って、オトコやったん?」

 

聞いて空気悪なるのも嫌やけど

このまま黙っとくのも、俺のもやもやが

募るだけな気がして。

 

 

「え?」

 

 

さっきのアレ、を見てなかったとでも

思ったのか、彼女は、なんでそんなこと聞くの?

みたいなケロッと顔しちゃって。

 

「…………さっきの、オトコよな?」

って、あえて視線は彼女と

反対側の窓の向こうに視線を外す。

 

「あ、アレは、今日ご飯してた友達の友達で。

友達の家に居たら、たまたま来て………で。

廉がそろそろ着くかなって思って、

マンションの前で待ってようと思ったら

その友達の友達も帰るからってなって、」

 

「………………ふーん、で、番号聞かれたん?」

 

核心を突いた俺に

気まずそうにしている彼女が

視界の端に入る。

 

「………彼氏いる、って言った、よ?」

 

よ?、じゃないねん。

 

そんな綺麗な鎖骨がみえたニット着て

俺好みのタイトなロングスカートで

えっろいケツしてんのアピールして

あんな風に笑われたら、

オトコはみんな勘違いすんねん、て。

 

「……………ごめんなさい。」

 

俺が何も言わんから怒ってると思ったんか

謝ってくる彼女。

 

怒ってるし、なんなら謝ってくる彼女にも

腹立ってきた。

 

 

「………なんで、謝るん、なんかやましいことあるん?」

 

「そんなの、無いけど、なんか怒ってるから。」

 

俯いたまま、小声で話す彼女の声は少し震えている。

 

 

「…………怒ってへんよ、ただの嫉妬やから

気にせんとって。」

 

せっかくのクリスマスやし、

あんなよーわからんオトコのせいで

俺達の聖なる夜を台無しにされるのは

もっと腹立つから、これ以上追求せんとこ。

 

 

 

 

マンションに着いたのは、

日付もとっくに変わって、

クリスマスでもなくなった

ただの12月26 日。

 

 

 

真っ暗な部屋に入るなり

背中から襲うように彼女を抱きしめて。

 

「きゃっ…………れっ、ん……?」

 

強引に反転させた彼女を

彼女がお気に入りのソファに押し倒した。

 

電気も付けずに。

 

怒ってるわけやないから、

これは、ただの嫉妬をぶつけたいだけ。

 

彼女の顔の真横に折畳んだ腕をついて

唇が当たるギリのところで

 

 

 

「…………あんなに笑ったらあかんよ、」と吐き出す。

 

 

 

 

学生時代、

まだ俺達が隣の席に座るだけの関係だった頃。

 

「さっき俺○○さんと

初めて喋ったんやけどー!!!!」

 

塾の帰りに、テンション高めの同級生が

今の俺の彼女の○○と話したことを

やたら嬉しそうに話していて。

 

「あ、俺もこの間話したんやけど

あの子、普段綺麗な感じやけど笑うと可愛いよな」

 

って、また別の同級生が同調していて

 

「そうそう、普段クールな感じやから

なんか俺に気ぃあるんかもしれん」

 

「「 うーわ、とんだ勘違い野郎ー 」」

 

って、あの時はゲラゲラ笑ってた俺やけど

 

らしいですよ、

普段クールなあなたは笑うと

そのギャップが、馬鹿な男を勘違いさせんのよ。

 

 

 

また、なんのこと?みたいなぽけ〜っとした

顔して、こっちを見つめ返す彼女。

 

それ、それ、その顔も

ぜんぶ可愛いからやめろ。

 

「……………その顔もあかんで、」

 

ぜんぶ駄目。

 

「おはよ、」って眠たそうに目をこする顔も

「行ってらっしゃい」って俺を送り出す笑顔も

深夜にやってるネイチャー系の

ドキュメンタリーみてめそめそ泣いてる

ウサギみたいに目を真っ赤にした泣き顔も

夜のベットで恥ずかしそうに俺に揺らされる顔も

 

ぜんぶ、俺の。

 

 

 

 

俺の真っ黒な嫉妬も、

この暗闇の中なら中和される。

 

甘い甘い夜にしたかったのに。

 

 

綺麗な鎖骨がみえるニットは

駄目、って言われても引っ張るように脱がせたし

俺好みのタイトなロングスカートの上からでも

やっぱり、じゅーぶんえろかった。

 

 

 

 

 

情事(コト)が終わった今も真っ黒な嫉妬を

纏ったまんまの俺。

 

「、どこ行くん。」

 

ソファ下のラグの上に

ぺたんと座り込んでいた彼女は

服をかき集め、立ち上がる。

 

「………お風呂、行ってくる。」

 

「…………俺も行く」

 

彼女は、何も言わずに脱衣所に続くドアを

開けっ放しにしたのが「おいで」って

言われてる、なんて都合のいい解釈か。

 

 

彼女がいれた入浴剤のせいで

白く歪むバスタブの中で俺の腕の中におさまる彼女。

 

うなじに優しく唇を当てると

 

「れん………」と俺を呼ぶ彼女。

 

「ん?」

 

「………さっきの、ちょっと怖かった」

 

「ん、ごめんな?」

 

「あの服、気に入ってたのに」

 

「…………ごめん、新しいの買うたるから」

 

「…………………要らない。」

 

「ん、じゃあ、なんか他に欲しいもんあるん?」

 

今日は、日付こそ変わったけどクリスマスやし。

 

水面の揺れる音だけが、浴室に響く。

 

少しの空白のあと、

「………………れんがいればいい、」っていう

彼女は、誘ってるってことでいいの?

 

俺の腕ん中で背中からみても

耳を真っ赤に染めた彼女が決して

のぼせてるわけじゃないって自惚れていーの?

 

お風呂から出て、

お互いの髪を乾かし合ったあと

ソファで眠たそうにうとうとし始めた彼女に

「へい、」とラッピングされたプレゼントを渡す。

 

 

「……………え、何。」

 

 

「、いや大したもんやないから期待せんといて。

指輪〜とかじゃないから。」

 

「わたし、なんも用意してない。」

 

「えーよ、俺が勝手にあげたかっただけ。」

 

も〜ずるい、って言いながらラッピングを解く

彼女が包装紙を丁寧に開いて取り出した

 

「…………スリッパ?」

 

「うん、みて。」

 

彼女に見えるように俺も自分の足をあげて、

俺とお揃いですよアピール。

 

「………今のスリッパ、めちゃめちゃ冷える

言ってたやろ?、これ、めちゃめちゃ温かいから」

 

大したもんでもないし

ロマンチックでもないのに

 

ありがと、って涙ぐむ彼女は、俺の。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サンタさん、

何も要らんから

 

この子を、永遠に「俺の」にしてください。

 

どんな偉業を成し遂げたって

どんな肩書きを手に入れるより

この子が欲しい。

 

他には、何も望まんから。