髙橋海人 ✕ 許されない恋だった②

 

「で、どーやったん?」

 

歌番組の収録前の楽屋。

昨夜の出来事に悪びれる様子もない廉。

 

 

「、なにが?」

 

聞かれていることは、分かっていても

素直に答えるのは、なんか癪だった。

 

 

「わかってるやろ、何もったいぶってんねん。」

 

「‥‥別になんもないよ、」

 

廉に置いてけぼりにされた。

 

廉の知り合いの女の子と

ふたりきりで食事をした。

 

廉の3万円でお会計は済ませた。

 

お店の前で「ごちそうさま」って言われた。

 

駅まで彼女を送る時に

LINEは、交換した。

 

別れ際に、「またね」って言われた。

 

今度は、「廉の説教大会」する。

 

‥‥俺は、彼女を好きにな‥‥…った、

 

 

それだけ、

 

「で?」

 

廉は、「それだけ」を知りたがるし

言わせようとしてくる。

 

でも、これは、きっと「本気になる恋」だから。

 

おもしろおかしくするつもりなんて

これっぽっちもないんだよ。

 

だから、

 

「なんも無いよ。」

 

廉に突っ込まれる前に

楽屋を出て行った。

 

 

角を曲がって、

ポケットから携帯電話を取り出す。

 

― 今夜、空いてますか?

 

ひと呼吸置いて

メッセージを送る。

 

廉くんも一緒?って言われて

廉は、仕事があるみたいって、咄嗟についた嘘。

 

LINEの文面なのに

そこから読み取れる戸惑い。

 

既読ついてからの時間が、さっきより長くて

彼女が何かを躊躇っている、と分かった。

 

― 俺とふたりは、やだ?

 

躊躇ってる、なら押し続けるまで。

 

― そんなことないよ、うん、行く

 

行く、の前の「うん」は、彼女が自分自身に

言い聞かせた証拠だ。

 

 

 

 

女の子が好きそうな、おしゃれなお店がいいかな。

変に気を遣わせないように居酒屋とかの方がいいのかな。

 

それとも、

 

 

 

 

― 俺の部屋、来ます?

 

 

こういう職業だから、なんて

後付けは、都合良く、いくらでも言えた。

 

失敗は無いだろうと、使い慣れたタコ焼き機を

テーブルに置いて、キッチンで食材を用意する。

 

「私も手伝うよ、」と

隣に並ぶ彼女の手際の良さのおかげで

無事にふたりだけのたこ焼きパーティーは成功した。

 

初対面の時は、お酒も入ってたんだろうか。

 

それとも、アウェイな場所では、こんな感じなんだろうか。

 

会話は、前ほど続かない。

 

 

 

「はい、どーぞ。」

 

食後の紅茶をテーブルに並べると

 

「あ、ありがと。」って両手でマグカップ

フーフーと口を尖らせて湯気を揺らす。

 

「‥‥今度は、廉くんも来れるといいね。」

 

今度、その言葉が存在するだけマシか。

 

俺の経験値じゃ、これ以上は望めないかもしれない。

 

「‥‥‥‥‥‥廉が一緒の方がよかった?」

 

俺は、ふたりだけで会いたかったよ、の意図を添えて。

 

「え?‥‥‥ん、今日は今日で楽しかったけどね?」

 

けどね?‥…か

 

 

コトン……

彼女が、マグカップをテーブルに置く音。

 

「、そろそろ…行こっかな」

 

ごちそうさまでした、って立ち上がる彼女を

黒目だけで追いかける。

 

「、あの」

 

引き止める勇気に続く言葉が思いつかない。

 

「ん?」

 

コートに手をかけた彼女の動きが止まる。

 

跪いた彼女とようやく重なる視線。

 

「‥‥‥俺が‥‥‥好き、って‥‥…言ったら……困りますか?」

 

 

俺の部屋なのに、そうじゃないみたいな空気に包まれて。

 

目の前に居るはずの彼女は、どんどん遠ざかるように

彼女の視線は、テーブルに落とされた。

 

 

 

 

 

「‥‥‥‥‥‥私、付き合ってる人いるから。」

 

 

 

 

 

 

 

 

廉がくれた出逢いに舞い上がった翌日

俺は、地の底に突き落とされた。

 

 

 

「まだ、終わってなかったん?」

 

そのさらに翌日、

半分クレームを言うような気持ちで

仕方なく廉に相談したら

「3人で飲むしかないな」と言われて、

これで3日連続、俺の前に彼女が座っている。

 

目の前で廉に詰められる彼女。

 

まぁ、よく考えたら廉が勝手に紹介して

俺が一方的に好きになって、

「次は、廉くんの説教大会ね?」なんて言ってたのに

目の前で繰り広げられるのは、

圧倒的劣勢な彼女と、その彼女を問い詰める廉。

 

俺は、完璧に告発人。

 

理不尽に詰められる彼女が可哀想にもなってきた。

 

 

レモンサワーの入ったグラスに

尖らせた唇を付けた彼女は

 

「‥‥勝手に終わらせないでよ、」と廉を睨む。

 

廉は、隣に座る彼女のバッグから携帯電話を取り出すと

彼女の「やめてよ、」と制止しようとする手をすり抜けるように

「誰か、」とのメッセージのやりとりを

表示させた画面がテーブルの上に広げられる。

 

「海人、安心せぇ。こんなん彼氏とちゃうから。」と

 

見てはいけない、と思いながら

そこに視線を落とせば、

LINEのトーク画面。

 

業務内容のように

「803」「502」「710」と、数字が並ぶ。

 

どういうこと?

 

 

 

「ふーりーん、」

 

「え、?」

 

「ちょっ、廉くん、やめ・・・」

 

彼女は、テーブルの上の携帯電話をバッグに戻し

廉の口を塞ぐような仕草を見せる。

 

廉は、それをなんでもない顔して

華麗にかわす。

 

「この人、こんな顔して不倫してんのよ。」

 

へー・・・・・・こういうの、

ドラマの世界、だけだと思ってたって程

子供じゃないけど、実際に目の当たりにすると

なんて言っていいのか、相応しい言葉が見つからない。

 

 

 

「・・・・・・・。」

 

彼女が、少し不機嫌になったのを

気にしてるのは俺だけで。

 

「、やめとけって、俺言うたよな?」

 

廉は、そんな彼女に気付いてるのに

「そんな顔したって、俺は言い続けるからな。」と

強気な姿勢を見せる。

 

「前に会ったの、いつよ。」

 

「・・・・・・・・3カ月前。」

 

「連絡とれてんの?今度、いつ会うん?」

 

「今、奥さん妊娠中で・・・・里帰りしたら・・・」

 

可愛い顔して、凄いこと言うじゃん……。

 

廉は、その言葉に持っていたジョッキを

ガンッとテーブルに置く。

 

「、あ゛ー‥‥腹立つな。」

 

「次、会う時に終わらせてまえ、そんなオトコ。」

 

「お前、そんなんしてたら、一生抜け出せへんで。」

 

彼女の視線は、昨夜同様にテーブルに落とされたまま。

 

こんな展開になってしまったのは、俺の告発がキッカケで。

 

なんか俺も申し訳ない気持ちになってきた。

 

彼女に「鏡見てこい、」と廉がバッグを渡すと

彼女は、無言でそれを受け取って立ち上がった。

 

 

 

「、なんか・・・・ごめん。」

俺がそう廉に言うと

「なんで、お前が謝んの?ってか、ごめん。

もう終わってると思ってたから、アイツら。」と

廉は、ジョッキに入ったビールを一気に飲み干した。

 

「‥‥廉は、相手がどんな人が知ってるの?」

「詳しくは知らん。聞きたくもないし。どーせ、大した男ちゃうよ。

アイツを平気で2番目に出来るような男なんやから。」

 

廉が苛々してる。

 

まるで、廉が彼女のこと好きみたいじゃん。

 

 

「俺な、不倫は理解出来へんけど。別に悪いとは思わへんのよ。

そういうリスクも理解しての関係なんや思うし、

そりゃ傷つく人は出てくるけど、そんなん分かってて止められへんのやろうし

当人同士の問題やし。どう転んでも自業自得、やん?

外野がぎゃんぎゃん口出すのもどうなんって思うし。

まぁ、ええんちゃう?って思うのよ。

 

 

だけど‥‥アイツ、そんなん向いてへんから。

そんな器用な子ちゃうねん。割り切れてへんのよ、全然。」

 

だから、次の恋って思ったのよって言う廉。

 

「それに‥‥‥‥‥お前、めっちゃタイプやろ?

お前やったら、絶対あの子悲しませへんって思ったのよ。

ふたりとも、俺の大事な人やし。」

 

廉は、そう言うと、また財布から3万円を取り出して

テーブルに置いて「俺行くわ、」と帰って行った。

 

戻ってきた彼女は、

「あれ?廉くんは?」と、俺を見る。

 

「あ‥‥今日は帰るって‥…。」

 

「怒らせちゃった、かな」って腰を下ろす彼女。

 

「私達も行こっか?」って、伝票に手を伸ばす彼女。

 

そんな彼女が掴みかけた伝票を取り上げて、

レジに向かった。

 

 

彼女が財布から取り出したお金は受け取らなかったし

廉のお金は、翌日そのまま返した。

 

「・・・じゃ、」

 

「またね」じゃなくて、「・・・じゃ、」

そういう彼女は、きっと、もう俺と会うつもりがない。

 

 

ロクに目も合わなくて、

背を向けて歩き出す彼女の背中が遠くなる。

 

 

 

 

 

このままじゃ、駄目だ。

 

 

「待って、」

 

身体が勝手に動いた、

本当にそんなことってあるんだよ。

 

彼女の腕をコートの上から掴むと

振り返った彼女の目は、

うるうると涙でいっぱいになっていて。

 

「・・・・・・おれ・・・・じゃ、だめですか?」

 

ぽたっ、と零れ落ちた彼女の涙は

冬の空にキラッと一瞬輝いて、ふたりの間に落とされた。

 

「‥‥‥だから、付きあ「その人じゃなきゃ駄目ですか?」

 

 

 

「おれは‥‥‥あなたじゃなきゃ、だめなんですけど。」

 

この恋は、特別なんだよ。

 

だから、手を伸ばしたんだよ。