岸優太 ✕ 幼馴染 Episode 20

 

 

「………ちょ、ちょ、っと、なに」  

 

「なに、って…………その……わかんじゃん」

 

何故か俺に背を向けるようにして

ベッドに入って来た彼女を 

背中から抱きしめて

 

彼女がピクッと肩をあげて

振り返る。

 

その流れで、始めようとしていたのは

どうやら俺だけ、だったらしい。

 

舞台中は、なんとなくそういう感情も

ストイックにセーブしようと

自分の中で覚悟を決めて

 

でも何もないってのも無理な話で

チューまで、それ以上は、って

彼女も「そうだね、」って了承してくれて

 

舞台前に喧嘩なんてしてるから

俺は、もう禁断症状出るくらい

彼女とひとつになれる感覚を体感してなかった。

 

だから、今日は、って

 

何ヶ月かぶりの「泊まってもいー?」っていう

彼女からのLINEに「了解!」と返信したのは

雑誌撮影の個人カットの合間。

 

遂に、その日が来た!

頑張ったな、俺!と心の中で万歳三唱。

ベッドの横に置きっぱなしの

箱の中身の記憶を辿った。

 

だけど、

 

 

「そんなつもりなかった」って

彼女に回した俺の腕は、虚しくも解かれる。

 

アイドル、ってお仕事させて頂いてますけど

中身は、25歳の健全な男なんですけどね。

 

俺の「ヤる気」は完全に行き場を見失っていて。

 

彼女に跨りかけた足をベッドに戻して

剥がした布団をもう一度被りなおす。

 

少し、いや、結構・・・ショック

 

なのに、

 

「…………ねぇ、

ぎゅー、して寝たい」

 

なんて、俺の気持ちを弄ぶように

突き放したり、引き寄せたりする彼女の一挙一動。

 

「………うん」って俺が返事するが早いか

今度は、彼女の腕が俺の身体に回された。

 

俺の胸に寄せられる小さな頭が

少し震えてるような気がしたけど

軽い傷心の中で、俺もそのまま眠りについた。

 

 

 

 

翌日の仕事帰り。

 

俺は、嫌でも「真実」を知らされることになる。

 

「あ、あの‥‥」

 

マンションの前のコンビニで、お会計を済ませて

店を出ようとする背中を引き止める声は

カウンターの向こうから。

 

「‥‥なんすか。」

 

見覚えしかないその店員は、

俺をいつもやきもきさせる登場人物A。

 

「‥‥‥俺、〇〇さんのこと好きで」

 

「は?」

 

その宣戦布告ともとれる報告、

俺は聞いて何て言えばいいわけ?

 

「・・・・・あなたと付き合ってるって言われたんですけど

‥…諦め悪くって、俺。」

 

「‥……‥」

 

「‥‥‥なんか言うこと無いんですか?」

 

 

「今、話したい相手は、ここに居ないから。」

 

そう言って、店を出た。

 

ここで、俺がどんな言葉を並べても

届けたいのは、お前じゃないんだわ。

 

見上げれば、私はここに居るよと言わんばかりに

俺の部屋は明るく光を放っていた。

 

昨日のアレは、そういうことか

 

ねぇ、なんで言わないの、

俺、そんなに頼りない?

 

 

 

「あ、おかえり。」

 

玄関のドアを開ける音で

何事もなかったような顔でして

駆け寄ってくる。

 

「・・・・・。」

 

ただいま、って言うべきで

笑うべきだったかもしれない。

 

でも、俺は、そんなにデキた人間じゃないから。

 

「なんか言うことあるだろ?」

 

彼女の揺れる瞳の奥にある不安を

掻き出すように確信に触れる。

 

「え……、」

 

「はい、」

 

彼女からうるさい位に言われて持たされている

エコバッグを彼女の顔の前まで持ち上げる。

 

彼女から頼まれた牛乳。

 

駅近のスーパーが安いからね、って言われてたのに

しっかり忘れて、家の前。

 

買って帰らないよりマシか、って寄ったコンビニ。

 

レジカウンターに立つアイツは

眼中にないフリをする、

 

予定だったんだよ。

 

「なんで、言わねーんだよ。」

 

 

「………なんて言われた?」

 

 

彼女が呟いた言葉は、「こっちのセリフ」で。

 

「‥‥みんなに良い顔するからこういうことになるんだよ。」

 

言ってはいけない、言いたくもない、本音が零れた。

 

いつもなら、「なんでそういうこと言うの?」って

喧嘩になりそうな展開になる最悪の事態を覚悟してたのに

 

「‥‥‥言ってくれた?」

 

今まで見たこともない位、小さく弱い声で

俺の胸元に寄せられる彼女の身体。

 

小さな肩が、また震えてる。

 

「‥‥‥俺の彼女に手出すな、ってちゃんと言ってくれた?」

 

そう言いたかった気持ちと

まだ、そう言える程の自信が無い彼女との関係性。

 

彼女が求めてくれていたところに

辿り着けなかった俺は、

やっぱりまだこの関係性に自信なんて持てない。

 

‥‥‥泣いてる、

 

彼女の肩が、やっぱり小さく震えている。

 

彼女を抱きしめるような力強さは、もう残されてなくて

彼女の肩に手を置くので精一杯のキャパシティ。

 

「‥‥どこにも行かないから……嫌いにならないで。」

 

嫌いになる、そんなわけないのに。

 

彼女にも、不安があったんだ。

 

俺は、100%で愛せている自信だけがあって

100%で愛されている自信だけが無かった。

 

でも、それは、彼女も同じだったのかもしれない。

 

テーブルに用意された晩御飯の横にぽつんと置かれた

綺麗に包装された箱の中身は、甘いだけの塊。

 

今日がバレンタインデーなんて忘れてたよ。

 

2人の不安を確かめ合った今夜は

きっと、そんなチョコレートより甘く溶け合える。

 

もう、どこにも行くな。

 

俺のそばに居ろ、そう言えるだけの自信は

 

真っ白なシーツで照れたように顔を隠す君がくれる。

 

そう、わかったから。