平野紫耀 ✕ 年上彼女 Episode 14

 

目が覚めると、

そこに昨晩重なり合った温もりは無くて

 

勢いのままに脱ぎ捨てたTシャツは

枕元に、丁寧に畳まれていた。

 

彼女の右足の重みでベッドが沈んだ瞬間に

投げ捨てたはずの携帯電話は

ヘッドボードに置かれ、

ご丁寧に充電器が繋がっている。

  

 

携帯電話のディスプレイに表示された「11:45」

 

結構、寝ちゃったな。

 

明日、休みだからいいでしょ?って

俺も明日は、13:00に家を出ればいいからって

午前3時くらいまで彼女の身体を独り占めして

そのままシャワーも浴びずに瞼を閉じた記憶と

 

下から揺らして、眺めて、引き寄せて

唇を合わせた彼女の乱れる長い髪に

指を通した感覚が鮮明に残っていて

 

 

 

 

「‥‥‥あれ?」

 

てっきり、リビングで

「おはよ・・・って言っても、

もうお昼だけどね」

って笑いかけてくれると思っていた

彼女の姿は見当たらない。

 

♪~

 

タイミング良く鳴り出した

携帯電話のディスプレイに

表示される、名前をなぞる様に

スライドする指。

 

「あ、おは「どこ?」

 

彼女の第一声すら待てない。

寝起きの声は、ひたすらに低く

いつにも増して掠れている。

 

「・・・え?」

「今日お休みでしょ?どこ?」

 

 

 

彼女のこととなると、必要以上に想像以上に

苛々してる自分は、もう自分自身では

抑えきれない程、短気、せっかち。

 

「ごめんね?メモ・・・

テーブルに置いといたんだけど。」

 

彼女にそう言われて、

テーブルに置かれたメモに気付く。

 

「‥‥会社なの?」

 

ー 会社に呼ばれちゃったので、行ってきます。

 

「そうなの。トラブルがあって。

紫耀、今日何時に終わりそー?」

 

「俺?今日、6時には終わる。」

 

 

 

 

 

 

 

彼女と待ち合わせなんて、いつぶりだろ。

 

私もそのくらいになりそうなの、と

待ち合わせしない?、と

 

警戒心の塊、みたいな彼女の口から

そんな言葉が飛び出したことに

俺の頬は自然と緩んだ。

 

日曜日の午後7時、

人混みの中に彼女を見つける。

 

周りの人なんて、どれもエキストラで

はっきりと、俺の興味は一点にだけ注がれる。

 

飲み込まれそうな人混みの中で

きょろきょろと俺を探すように辺りを見回す彼女。

 

すれ違う男達が、さっきから

彼女を視界に捉えていることも

被害妄想では無い気すらしてきた。

 

「あ、」

 

ひとりの明らかにチャラそうな男が

彼女に話しかける。

 

俺は、運転席から殺意にも似た感情を

押し殺すように息を潜める。

 

彼女は、困ったように眉を下げて

愛想笑いで対応している。

 

それにすら、「なに笑ってんだよ」と

醜い嫉妬が燻り出す。

 

チャラそうな男は、

何かを諦めたようで、彼女から離れていく。

 

 

彼女をこんな危険な夜の街から救出しようと

サングラスをかけて戦闘態勢を整えれば

 

「‥‥」

 

彼女から目を逸らしただけの

ほんの一瞬の隙に、

また彼女に近付く黒い影。

 

今度は、さっきとは違うタイプ。

 

スーツなんて着ちゃって、知り合いか?

 

彼女もその場を離れるような仕草を見せる。

 

それでも、彼女に近付くその黒い影。

 

舌打ちと同時に勢いよく開けた運転席のドア。

 

バンッと閉めたタイミングで、消え去る黒い影。

 

命拾いしたのは、俺の方かもしれない。

 

 

今まで気付かなかった、気付かないようにしてた

彼女は、この世界で無防備に息をしているということ。

 

「俺のもの」なのに

誰のものでもないような顔して

そこに存在しているということ。

 

「俺のもの」なのに

俺のものだとは言えない辛さは

彼女と分け合ってるつもりだったのに

俺の方が、ずっと負荷をかけられているような気がした。

 

 

俺を見つけると、ふにゃっと柔らかくなる顔。

 

「ごめん、待った?」

 

 

「ううん、私も今来たとこ。」なんて嘘を

いつも俺は、馬鹿正直に

真正面から受け取っていた。

 

男って、俺って、

馬鹿な生き物だな、ほんと

 

こんなにひとりの女に

感情乱されて、振り回されて

 

でも、一番は目の前の

この人に自覚症状が無いことが一番最悪で。

 

彼女の長い髪にそっと指を通すと

「ん?」って顔して、俺に向けられる瞳。

 

「えっ、」

 

彼女に同意を得る視線を送るのも忘れて

 

気が付いたら、俺の方が吸い寄せられるように

彼女の唇を塞いだ。

 

人混みの中、俺なんかよりずっと心配性の彼女が

「俺のもの」だと世界中に認知してほしいような気持ちで

一瞬だけ、本当に一瞬だけ。

 

「ちょっ、と・・・」

 

案の定、身体を離した俺に彼女はご立腹で

 

でも、俺の燻り続けたソレは

ずいぶんマシになっていた。

 

 

「ねぇ、」

 

帰路につく車内で、確信に触れてみた。

 

「ん?」

 

「いつも、あーなの?」

 

「、なにが?」

 

「‥‥ナンパ?されてたでしょ?」

 

「え?、みてたの?‥‥でも、

カットモデルとかそんなのがたまにね。」

 

俺を適当に納得させようとする、らしい理由で

逃げ切ろうとするところを本当なら問い詰めたいところ。

 

「・・・・・指輪、なんでしないの。」

 

クリスマスに渡した指輪、

最近になって身に着けてないこと

なんとなく気になってた。

 

「・・・・・無くしたら嫌だから。」

 

それじゃ、意味が無い。

 

アレは、彼女が安心できる

お守りみたいなもんで。

 

いや、俺が、かな。

 

撮影の時以外は、俺も同じ場所で

輝くソレは、俺の安心材料なんだよ。

 

マンションの地下駐車場に車を停める。

 

シートベルトを滑らし、ドアに手をかける俺を

「あ、ちょっと待って。」と呼び止める彼女。

 

右側を振り返ると、彼女が紙袋を揺らす。

 

「・・・・・・・ずっと、好きでした。

良かったら受け取ってください。」

 

って、もうその柔らかい頬が緩んじゃってんじゃん。

 

「なんて?笑」

 

「・・・・・・・一回やってみたかったの、」って

にたーっと悪戯に笑う彼女は

手作りじゃないんだけど、って俺と一緒に紙袋を覗き込む。

 

「、ここで食べちゃう?」

「・・・うん、食べて。」

「どれを?」

 

目の前で、恥ずかしそうに視線を泳がす彼女。

 

舐めとるように掬い上げた彼女のくちびる。

 

薄暗い車内に広がる甘い香り。

 

「うんま、」

 

チョコレートも彼女もどっちも頂く、全部俺のもんだから。