髙橋海人 ✕ 許されない恋だった④

 

「もしもーし、どした?」

 

電話の向こうの柔らかい関西弁。

 

「‥‥廉くん、」

「ん、その感じ・・・また、ホテル行ってたんか」

「んーん・・・家、」

「おーん・・・いえ?家?はぁ?」

「・・・・・・私、何やってんのかなぁ、」

「知らんよ(笑)てか‥‥何しに行ったん、嫁おるんやろ?まだ、」

「居た‥‥と思う、」

 

廉くんに電話したら、当然の如く叱られるもんだと思った。

叱ってほしかった、何してんねんって、叱ってほしかった。

 

そしたら、私は「正しい」方へ戻れるんじゃないかと思った。

 

だけど、廉くんは恐らくゲームをしながら

話半分な感じで「うんうん」と相槌だけは聞こえて。

 

「‥‥怒らないね、今日」

「怒ってどうにかなるもんちゃうんやろ?

もう、そこまできてんねやろ?」

 

廉くんの言葉に、さっきの出来事を

冷静に振り返ってる自分が結論を出すのは

案外容易かった。

 

何処かで、分かってたことを

自分が認めたくなかっただけだったから。

 

 

もう、駄目だと思う。

ルールを破ったらしい私を見るあの人の目。

 

私、あの人とどうなりたかったんだろう。

 

「お前さぁ…会いに行く相手も

電話かける相手も間違えてるって気付いてる?」

 

きっと、海人くんから聞いたんだ。

だから、廉くんは全部知ってる。

 

でも、

 

「‥‥海人くん、良い子だよね。」

「んー?ああ、海人ぉ?んー、ええやつよ。すぐ泣くけど。笑」

「‥‥私なんかには、もったいないよね。」

「そうかぁ?俺、お前と海人お似合いやと思うけど。」

「‥‥‥どこが?」

「なにってわからんねんけど、なんとなく。」

 

また適当な返事が返ってきたと思ってたのに

 

「今から行ってみ?アイツ、多分家におるから。」

 

 

 

「そしたら、分かるよ。」って廉くんとの電話は終わった。

 

 

何年も続いたベッドの上だけで

「好きだよ」って言われる関係の彼には

「会いたい」の感情を押し殺して

ルールを破ったらしい私を見る目は酷く冷たいものだった。

 

男なんてそんなもんだって、

海人くんが証明してくれたらそれでいい。

 

私は、また人生なんてこんなもんだって思えるから。

 

 

 

 

一度だけ来たことのある海人くんの部屋の前。

 

何の連絡も無しに会いに来た私を

「有り得ない非常識な女だ」って

追い返してくれないかな。

 

そう思ってる自分と、

「信じてる」自分も何処かに居た。

 

もう後戻りのできない賭け。

 

チャイムを鳴らしたのに

何の反応も無くて、時間は過ぎた。

 

「嘘つき・・・」

これは、廉くんに対して。

 

諦めて帰ろうと、身体を反転させると

「‥‥‥〇〇ちゃん?」

きょとん、と目を真ん丸にさせる海人くん。

 

「海人くん・・・お、かえり。」

「ただいま、って連絡しなよ。番号教えたよね?」

 

だよね、迷惑だったよね。

 

「めっちゃ嬉しいけどさ。」

 

「信じてる」私の目の奥の水分量がじゅわっと増した。

 

私の前を通り過ぎて、慌てて玄関の鍵を開ける海人くん。

 

その顔は、ふにゃっとあらゆるパーツを緩ませていて。

 

「‥‥ごめんね?」

「何が?」

「突然来て・・・迷惑だったでしょ?」

「え?言ったじゃん、嬉しいって。

だけどさ、連絡くれたらさ、待たせなかったし

〇〇ちゃんの好きそうなアイスも買ってきたのに。」

 

そう言って、袋の中からアイスを3つ取り出した。

 

「3つ買ってきてよかった、」って

「どれがいー?、てか、あがんなよ。」って

 

なんで、そんなに笑顔なの?

 

 

「ごめ・・・ん・・・、」

 

海人くんが優しすぎて泣けた。

海人くんが温かくて泣けた。

 

 

 

海人くんを好きになりそうで泣けた。

 

「ちょっと、どうしたの、ちょっと待ってて。ティッシュ、あ、てか、あがって?え?あがってくよね?あ、ちょっと、ティッシュ。」

 

お言葉に甘えて、海人くんの部屋に足を進める。

 

テーブルの上に、まだタコ焼き器が置いてあって

そこに視線を置いた私に気付いた海人くんが

「あ、たこ焼きの方がいい?材料まだあるよ」なんて

深夜1時過ぎて言うもんだから、つい笑ってしまう。

 

「あ、良かった、やっと笑ってくれた。」って

ティッシュボックスをまるごと渡してくれた海人くんの目が

私と比例して、どんどん笑顔を消していく。

 

「‥‥何があったの、って聞いてもいー?」

「・・・・・。」

 

私の手元のティッシュボックスから

ティッシュを2、3枚取り出すと

少し屈んで、私の顔を覗き込んだ海人くんが

私の頬を伝う涙を拭ってくれた。

 

「‥‥‥‥〇〇ちゃんは、しあわせ?」

「え?」

「幸せって言える?今、」

「・・・・・。」

「〇〇ちゃんにそんな顔をさせるその人は、悪い人だよ。

 俺は‥‥」

 

何かを言いかけた海人くんが

私からティッシュボックスを取り上げて

テーブルの上に置く。

 

そして、空いた私の両手を海人くんの両手が埋める。

 

「・・・・・そんな顔させないよ。」

 

繋がれた手からゆっくり視線をあげると

海人くんの優しい視線と重なった。

 

「‥‥海人くん‥‥」

「ん?」

「私、」

「ん、」

「‥‥海人くんのこと」

「ん、」

 

 

 

 

「好きになってもいいかな?」

 

そう言った私に、霧が晴れるみたいに

海人くんの表情が和らぐ。

 

「ほんとに?これ、夢じゃないよね?」

「‥‥私で、いーの?」

「〇〇ちゃん、が!いーの、」

 

特別な展開は何一つ望んでなかったと言ったら嘘になる。

 

だけど、キミとの日常が欲しかった。

 

この恋は、特別なんだよ。

 

だから、繋いだ手は離さないよ。