永瀬廉 ✕ 片想い ⑩

 

 

平野君と居ると、楽しい。

 

平野君の前で、「女の子」で

居ようとする自分も嫌いじゃない。

 

待ち合わせ場所は、

平野君の都合で待つようなことがあっても

退屈しないところを選んでくれるところとか

 

平野君の車の助手席に乗り込む時は、

必ず降りてきてドアを開けてくれるところとか

 

何食べたい?って聞いてくれるところとか

 結局、優柔不断の私が答えを出せなくても

2つ3つ私の好きそうなお店が出て来るとことか

 

ブレーキを強く踏んだ時に

咄嗟に助手席に座る私の前に手が回るところとか

 大丈夫?って顔を覗き込むところとか

 

お店には、先に通してくれる

レディーファースト主義なところとか

 

言い出したらキリが無い。

 

平野君の隣に居たら、

幸せになれるんだろうなって

そう思う瞬間が沢山ある。

 

 

 

 

 

 

 

 

廉とは、大違い。

いつも私の気持ちなんてお構いなしの、廉とは。

 

 

あの夜の出来事は、全部忘れる。

ていうか、忘れたい。

というより、忘れるべきなんだと思う。

 

あれは、ただの事故。

、だよね?

 

 

一瞬、何が起こったのか分からなくなった。

 

静かに流れる時間の中で、

廉の顔がスローモーションで

それでもストロボのように眩しい光を纏って

近付いてきて、呼吸がひとつになった。

 

私の身体は催眠術でも

かけられたみたいに

動けなくなって

 

視界は、真っ暗に覆われて

「触れてる」って気が付いた。

 

パチンと催眠術がとけた瞬間みたいに

私は、後ろに身体を倒して、廉から離れた。

 

心音が私の胸を突き破って

廉に聞こえてしまいそう。

 

それでも、廉の顔は、綺麗なまま。

なんでもなかった顔して。

 

 

「送ってやれんから、はよ帰れ」って

くるん、と揺れる前髪の隙間から

今にも閉じてしまいそうに

眠そうに細めた目で

背中を押されて、部屋を追い出された。

 

振り返った時には、冷たいドアが

私に迫って来て、鍵をかける音がした。

 

この隔たりの向こう側、

きっと廉がそこに居る気がして

右手をそっとドアに当てた。

 

廉、私達は「友達」だよね?

 

 

 

 

「、ねぇ?聞いてる?」

 

デートの帰り、

平野君が家まで送ってくれたついでに

私の部屋でお茶をする、が

いつものパターンになりつつあった。

 

リビングのソファから話し掛けていたらしい

平野君が「おい、上の空かよ〜」なんて笑ってくれる。

 

ごめん、ごめんって、私も笑って返せる。

 

忘れよ、きっと、廉も覚えてない。

私達、「友達」だもんね?

 

「昨日さ、廉、大丈夫だったの?」

 

平野君のと、私のグラスをそれぞれの前に置いて

私も平野君の斜め右に座る。

 

「え、」

「廉。送ってったんでしょ?」

「ああ、うん・・・だい、じょーぶ。」

「、なんかあった?」

「え?無いよ?」

「ふーん・・・。」

「なに?」

「ううん、なんも。」

 

平野君がグラスの中の一番高いところにある

氷を人差し指で撫でる。

 

からん、と落ちた氷から目線をあげた先で

平野君が首を傾ける。

 

言葉を選んでいるのか、探しているのか

何かを飲み込む度に、喉仏が大きく動く。

 

「今日、廉・・・大丈夫だった?」

「なにが?」

「‥‥二日酔い、とか?」

「うん、普通に仕事してたけど。」

「なにか話した?」

「、なにを?」

「‥‥ううん、やっぱりいい、」

 

お互いに何かを探りあって、

確信的な何かから避ける。

 

遠回しに何かを言いたげな平野君が

ラグに乗せた右の掌に重心を乗せて、

私との間の何十センチかの距離を詰めて座り直す。

 

「寂しかったなぁ、なんか。」

「え?」

 

その距離が、

肩がぶつかるくらいまで縮まる。

物理的に。

 

「……行ってほしくなかったなぁ、って。」

 

三角座りをした私の膝に置いた左手薬指が

同じように隣で三角座りをした平野君の右手薬指に捕まる。

 

「‥‥‥ひ、らのくん?」

 

廉が「触れた」時と全然違う鼓動の波。

同じように高まっているのに

それは、何処か穏やかで優しいもの。

 

「れん。」

 

平野君の声で聞くその名前のせいで

また鼓動が早まる。

 

とくとくとく、乱れるリズムも気持ちも。

 

「…………」

「いつから、そう呼ぶようになったんだっけ?」

 

平野君にそう言われて、

今度は私のグラスの中の氷が

からん、と音を立てる。

 

「、なんでそんなこと聞くの?」

「‥‥‥なんでだと思う?」

「………………」

 

平野君の右手の小指と私の左手の小指、

から私の指と指の間に平野君の指が割り込んできて

平野君の右手と私の左手になる。

 

 

平野君の掌の温度に包まれる。

 

 

 

「好きだからだよ。」

 

 

 

望んでたはずの展開。

 

こうなりたかったはずなのに。

 

「俺、短気だからさ。

返事は気長に待てないタイプなの。

それだけ、言っとくね。」

 

平野君の背中を見送ることも出来なかった。

 

こうなりたかったはずなのに。

 

ねぇ、廉

私達は「友達」だよね?