髙橋海人 ✕ 生活 (仮)

 

出会った頃、こんなに大切に想うなんて

少しも思わなくて、いや、少しは思ってたかな

 

君は、知らないだろう

まだ、君に恋に落ちるまえの僕を。

 

僕は、知ってる。

まだ、僕を好きになるまえの君を。

 

だから、君は僕に敵わないよ。

 

僕が、君を見つけたあの日から、ずっとね。

 

君との生活(仮)を1日でも永遠に近付ける三箇条。

 

1) どんな彼女も愛せる俺で居ると誓う

2) どんな俺も愛してくれる彼女で居て欲しいと願う

3) どんなことがあってもふたりなら大丈夫と信じる

 

 

 

2人の間を吹き抜ける春の風は、今も優しくて、

君を見つめる僕の腕は、今も穏やかに君を包む。

 

人混みを避けるようなデートの終わり、

仕方なく手を離す大して需要のない辛さとか

 

お互いタイミングを合わせて背を向けて

それぞれの方向へ歩き出す寂しさとか

 

何度も振り返り、どちらともなく

また歩み寄るもどかしさとかやるせなさとか

 

いろんなこと引っ括めて

別々の部屋に帰るメリットなんて無かった。

 

 

 

俺の職業柄、頻繁にデートを重ねることは出来ない。

 

理解が良すぎるのも、

俺的には物足りなさを感じたりしていて。

 

楽屋で、ジンが恐らく噂の彼女との通話中

何度も困った顔をした原因が

「会いたいって泣くから」なんて

聞いた時、実は少しだけ羨ましいなんて思った。

 

きっと、ジンには、それだけの度量があって

だから、彼女もジンの胸の中に飛び込めるんだろう。

 

絶対に寂しいはずなのに

むしろ、そうであってほしいのに

不満のひとつも言わない彼女と

「離れたくない」のも、俺の方。

「寂しい」のも、俺の方。

「会いたくなる」のも、俺の方。

 

いつも、彼女の気持ちが声に乗っかることなんて

ゼロに等しいくらいなくて。

 

「私も、」って、それだけで。

 

「そんなの無いものねだりやん、

めちゃめちゃええ彼女やん。」って

廉に言われて、そりゃそうなんだけど、

って分かってるんだけど

 

本当は、世界中に、とは言えなくても

渋谷のスクランブル交差点のど真ん中で

「この人が、俺の大好きな彼女です」って

両手広げて、大声で叫びたいくらいに愛してるのも

もしかしたら、「俺だけ」なのかもしれない。

 

俺の部屋の契約更新が迫りかけた頃、

彼女もそんなタイミングを迎えてると知って

それは、運命だと思った。

 

彼女の部屋で、

彼女の手作りのピーマンの肉詰めを食べたあと

ソファで他愛もない話をデザートに、

彼女が入れてくれた紅茶を飲む。

 

これが、「日常」になれば、俺の不安なんて

笑い話に出来るのかな。

 

彼女は、ソファの上で

隣に居るはずの俺、の居ない方に上半身を倒して

クッションを抱えている。

 

俺の肩が、寂しいって言ってる。

こっちおいでよ、って言ってる。

だけど、彼女には、聞こえない。

 

彼女のスマホを盗み見すれば

1LDKの間取りが、さっきから形を変えて

次から次へと。

 

「良いとこ、ありそ?」

「んー・・・、そうだね。」

 

彼女と俺の間に、隙間を生むことなく

ぴたりと距離を詰める。

 

隣から人差し指を伸ばし

2LDK」のチェックボックスをタップする。

 

「えー、そんな広いお家じゃなくていいよー。」

「え、だって、俺、結構、物多いし。」

「‥‥‥え?」彼女が笑って誤魔化す。

「‥‥‥え?」俺がとぼけたフリして真似して聞き返す。

 

 

「ねぇ、一緒に暮らさない?」

 

男には、ここぞって時に

決めなきゃいけない瞬間があるって

紫耀から教わった。

 

女の子に言わせちゃいけない言葉があるって

紫耀が言ってた。

 

これは、俺の言わば、

プロポーズみたいなもんだった。

 

 

ドラマの撮影が立て込んで、 

忙しくしていた俺を気遣って

彼女がひとりでまわってくれた内見。

 

撮影の合間に、俺の携帯電話に届いた1枚の写真。

バルコニーから見える大きな川と桜並木。

 

その景色に

都会の生活に息苦しくなったとしても

ここで、彼女と未来を語れたなら、

そんな理想を直ぐに抱いた。

 

 

色違いのキーケース。

2セットずつ揃えた食器たち。

季節の花が彩るテーブル。

お揃いのパジャマ。

彼女に頼まれて俺が悪戦苦闘して組み立てたラック。

彼女がお気に入りのケーキ屋さんも

俺が好きなパン屋さんも徒歩圏内に見つけたし。

 

ふたりの生活(仮)は、

ふたりの色で染まって行って

部屋中に、幸せが溢れた。

 

一緒に暮らし始めて、この春で1年が経つ。

 

朝、目が覚めて一番に映る世界も

夜、眠るときに隣に感じる温もりも

愛しさで構築されていく全てに、君が必要で。

 

アラームだけでは、

起きられない俺を揺さぶる困った顔も

 

俺の嫌いな野菜を並べて、

好き嫌いしないのって頬を膨らます顔も

 

行ってらっしゃいって、

キスをせがむ俺に照れたように目を閉じる顔も

 

おかえりなさいって、

あどけなさを残したすっぴんで駆け寄る顔も

 

俺の「好き」を彼女が独占して、塗り替えて行く毎日。

 

「明日さぁ、どうしよっか?」

 

俺の帰宅を待って、少し遅めの夕食。

4月2日に聞かれる、明日の予定。

 誕生日にオフが貰えるなんて思ってなくて

目を輝かせて、この日を待ち侘びた。

 

「んー、俺は、一緒に居れたらなんでもいいけど。

折角、免許も取ったし、どっか出かけるのもアリだよね。」

「そうだね、今夜は映画でも観る?」

「あ、前言ってたじゃん。あれ、観よう?」

南瓜とマヨネーズ?」

「うん、それっ」

 

俺の「好き」を彼女と共有して、

彼女の「好き」を俺と共有して、

それが、ふたりの「好き」になっていく。

 

オレンジの間接照明だけで

部屋をじんわり照らして

自分たちじゃない恋人たちに感情を移して

 

ふと、隣に視線をやれば、泣きそうになってたり

微笑ましく笑ってたり、

ころころ感情を揺さぶられる横顔が可愛い。 

 

エンドロールが流れる数分前に

「俺は、ここに居るよ」みたいなキスをしながら

手を繋ぐのも、なんか好き。

 

23:59に言われる「大好きだよ」も

24:00、日付が変わった瞬間に言われる「おめでとう」も

24:12から始まるいつもより、ちょっと甘い夜も

 

ベタかもしれないけど、

この幸せがあれば、この世界で生きてくには

十分すぎる理由だよなって思った。

 

白いシーツから覗く、白い肌が好き。

少し触れただけで、赤く染まる頬が好き。

ふんわりサボンの香りがする、長く揺れる髪が好き。

 

「・・・・・あれ?」

 

目が覚めて、触れたいと思った彼女がそこに居ない。

 

昨晩、脱ぎ捨てたTシャツを着て、ベッドを降りる。

 

「あ、カイ、おはよ。ごめん、さっき電話があって

今日、体調崩しちゃった人の代わりに出勤になっちゃったの。」

 

バタバタと目の前を往復する彼女を引き止める時間もなく

彼女は「なるべく早く帰るようにするから、良い子で待っててね。」

って玄関まで見送りに行った俺の頭を撫でる。

 

神様の悪戯に絶望するように、抜け殻になった俺が

リビングに戻れば、俺のお気に入りのパン屋さんのバタートースト。

 

突然の出勤依頼で時間の余裕なんて無かったはずなのに

オムレツに書かれたケチャップのハートマーク。

 

「あー、早く帰って来てぇ・・・。」

 

届くはずの無い祈りにも似た呟きは

お気に入りのバルコニーから吹き抜け

その先に広がる桜並木に携帯電話を向けた。

 

ドラマの撮影で、連日不規則な生活が続いて

彼女とすれ違うだけの生活が続いても

彼女だから、俺のそばに居てくれた。

 

文句の一つや二つぶつけられたって

ごめんね?って抱きしめるくらいの覚悟は、あったのに

文句の一つも言わずに、「今から帰るよ」のメッセージに

10分以内に「お疲れ様」と返信をくれる。

 

「先に寝てていいからね」という俺が

夜遅く帰って来ても、俺に「おやすみ」というまで

ベッドに入らない彼女がソファの上で

首をこてんと傾けながら睡魔と戦う背中も

 

彼女の出社時間よりも早く家を出て行く俺に

「おはよう」が言えるように、寝る前にベッドの中で

俺のスケジュールに合わせて、アラームをセットし直す横顔も

 

そんな健気な姿が愛おしくて

でも、どこか俺が罪悪感を覚えることもあって

「俺のせいで、」って、苦しくなることもあった。

 

それでも、ウッドチェストのうえに並ぶ

自撮りのツーショットが入ったフォトフレームが

様々な背景で増えて行くのは

俺が、彼女じゃなきゃ駄目だという想いが強いからだ。

 

 

テーブルの上に置きっぱなしの女性ファッション誌。

 

ソファに座って、パラパラと片手間にページを捲りながら

もうそろそろ帰って来る頃かな?って壁時計を見上げる。

 

空腹は、とっくにピークを通り越して

時刻は、21時を知らせようとしている。

 

何度も携帯電話を手に取るけど

俺から連絡をしなかったのは、

ただの意地でしかなかった。

 

うとうと、夢の世界へ引き込まれそうになって

玄関での物音に姿勢を正す。

 

 

「カイ、ごめん、遅くなって。」

 

彼女に何事も無かったように

笑いかけるような大人の余裕なんて俺には無くて

こんな自分は、好きじゃない。

 

そんな俺の表情の些細な変化に気付いてくれる彼女に甘えて

いつも先に折れてくれる彼女のせいで、

俺は、いつまで経っても大人になれなかった。

 

「ねぇ、なんかお酒臭い‥‥煙草の匂いも凄いんだけど。」

 

彼女には、似合わない煙たい鼻を突くようなソレ。

 

「あ、上司に一杯だけ付き合えって言われて‥‥

ごめんね、連絡も出来なくて。」

 

「‥‥…………毎晩、こんなことしてるの?」

「え?」

 

ジャケットをハンガーにかけながら

そんなことないよ、って笑う彼女に疚しさなんて無いのに

 

信じてあげたいのに

 

「どうかな、俺、居ないから分かんないもんね?」って

 

どうして、俺は、こうなんだろ。

 

「‥‥カイ?」

 

何度も心の中の俺が「やめとけ」って叫んだのに

「一緒に住むんじゃなかった、」って

なんで、留まれなかったんだろう。

 

そんなこと、1ミリだって思ったことないのに。

 

バルコニーに逃げる俺は、22歳になっても何も変わらない。

 

彼女を重ための愛情で困らせるだけの恋人だ。

 

はぁー、今日の桜は、ライトアップとは言えなくても

街灯に照らされて、綺麗なのになー。

 

目の前に広がる、この景色は

いつだって、彼女と共有するって決めて

今朝、撮った写真もフォルダにおさめた。

 

メンバーが面白がって撮り始めた俺の寝顔を

彼女だけが、ただただ可愛いと専用フォルダにおさめるように

俺の携帯電話も、彼女との生活(仮)でいっぱいだ。

 

「‥‥‥カイ?風邪ひいちゃうよ?」

 

Tシャツ1枚で出てきた事を後悔していたけど

素直に部屋には戻れないなぁ、って思ってた頃。

 

彼女が、少し前に

カイに絶対似合うって買って来てくれた

カーディガンを肩にかけてくれた。

 

「‥‥‥カイ、ごめんね?」

「‥‥‥‥‥‥悪いのは、俺だよ。」

 

ちっとも大人になれない俺。

こんなんだから、いつまで経っても

メンバーに子供扱いされちゃうんだ。

 

「でも、ちょっと嬉しかった。」

「へ?」

「カイのヤキモチ、私、好きなんだ。」

「・・・」

「愛されてる、って感じがするから。」

「、俺だって、愛されたいよ。」

「え?私、すっごい嫉妬深いよ?」

「え?どこが?」

「未だに・・・、姉ちゃんの恋人みれてないもん。」

 

そう言って、顔を隠すように俯く彼女の顔を

さらに顔を潜らせて、覗き込む。

 

あ、今、また「好き」が積もった。

 

コーラルオレンジの唇が薄く結ぶ、その顔。

 

「だって」「でも」「なんで」って

俺を責めることも出来たのに

そんなこと言わない、初めて見るこんな顔。

 

不謹慎に募る「愛おしさ」

 

付き合ってから

ううん、出逢ってから

初めての喧嘩?の最中なのに。

 

「やだ、こんなこと言いたくなかったのに。」

「え、言ってよ。俺だって、愛されたい。」

「愛してるよ?なんなら、私、カイの共演してる女の子

みんなにちゃん付けしたりするの、もれなく嫉妬してるから。」

「え、なにそれ初耳なんだけど。」

「・・・・・、」

「ねぇ、ちょっと顔見せて。」

「やだ、」

「ねぇ、」

 

俺の居ない方へ顔を背ける彼女の両頬を強引に

両手で挟んで、丸く柔らかな感触を確かめる。

 

「ねぇ、俺のこと、好き?」

「うん、」

「うん、じゃなくてさ。」

「好き、カイが思ってるより、ずっと好き。」

 

いつも俺からするキス。

一度も拒まれたことは無いけど、

ただ黙って目を閉じるだけの彼女の気持ちは、

読み取れなかった。

 

だから、彼女がほんの少し背伸びして

初めて顔を近付けた時、

目を閉じるのがもったいなくて、

ピンクのアイシャドウがキラッと光るのが可愛くて、

離れようとする彼女の後頭部に手をまわした。

 

 

「ねぇ、私、内見でね、ここで、この景色見たときね

おばあちゃんになっても、ここに居たいと思ったの。

私は、一緒に住もうって言ってくれたの、

嬉しかったし、後悔したことなんて1秒もないし」

「うん、」

「カイが後悔しても、やっぱり一緒に住むのやめよって言っても、

やだ、って我儘言っちゃうと思うし、

カイの好きな大人なお姉さんになれないかも、」

「………………やば、めっちゃ嬉しくて泣きそう、」

「てか、カイ泣いてるしっ、かわいー、」

「え、そっちも泣いてるじゃん、ガキ扱いすんな」

 

いい大人が、別れ話でもないのに、

夜の月明かりだけが照らすバルコニーで

めそめそとお互いを笑いながら、泣いて

ほんと、おかしなカップルの日常を切り取った

映画のワンシーンみたいな背中してるんじゃないかな。

 

俺は、ここで君と未来を語れたらって思ってた。

だけど、全然そんな綺麗なものでは、ないかもしれないけど、

今ここに君との生活(仮)がある。

それだけでこんなに幸せ。

 

いつか俺達の生活から(仮)が外れた時、

俺は、今より少しは大人の男になっていて

彼女は、今にも増して綺麗で可愛くなっちゃってる。

あわよくば、お仕事も順調だといいし、

パパになっていてもいい。

そんなに遠くない未来だといいな。

 

心から愛してるよ、